最近のフェイスブックには、「〜さんとの過去の思い出を振り返ってみましょう」というタイトルで、過去の年のその日付に投稿されたコンテンツが表示されるという機能があって、2012年の今日、7月6日のこととして、こんな記事があった。
もうすっかり忘れていた話なんだけれど、こんな不思議なことが起こるのが小売店という商売の面白いところで、そんなことをあらためて知っていただきたくて、恥ずかしながら再掲することにした。
ちょっとした思い出話。
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<よしみのクレーム日記 ブログ篇 20120706>
雨の木曜日。
今日あった恥ずかしい失敗談をひとつ。
雨の中、兵庫県朝来市から突然のお客様。
還暦が近いので赤いボルボに乗りたいと思って、と笑顔で話されるKさんだが、波乗りが趣味で、この日も四国から直接お越しいただいたそうだ。
今乗っておられる車はサーファー定番のハイエース。
そのハイエースを手離す気はぜんぜんなく、日常の足として使えるもう一台を旧いボルボにしたいということで、940から始まり、そのうち少しずつ本音がでて、例によって、ほんとは240に乗りたいんだけどデイリーユースで乗れますかね、というご質問。
これはYESと答えるしかない。
もちろん940クラシックと比べると年式の分だけリスクは高くなるけれど、240もきちんとメンテナンスをすればそれほど壊れる車じゃないし、そういった整備性よりも、乗りたいほう、気に入ったほうに乗っていただきたいというのが、われわれの公式見解。
もちろん旧いことに対する不安はあるかもしれないが、940クラシックも今や15年選手で、車における15年と20年の違いはそれほど大きなものではなく、どちらかというと年式や走行距離といったスペックではなく、前のオーナーからどういったケアをされてきたか、どれくらい大切にされてきたかということのほうが重要なポイントで、そういう意味でいうと、ターゲットにされている92/240GLも97/940CLASSICもそれほど変わらない。
ただ、価格的なことでいうと、940のほうがかなり割安感がある。
まあとにかく一回乗ってみませんか、ということでいつもの彩都→万博の試乗にもう一台の240を連れ出したが、そこで大失敗。
車が帰り道の万博外周で止まってしまったのだ。
原因はガス欠。
これは最高に恥ずかしいし、不安な気持ちを持ちながら初めて乗るKさんの不安を解消するどころか、不安に輪をかけるようなハプニングで、商談としては最悪の流れである。
商談の試乗でガス欠という考えうる中でも最悪の失態の話だが、失態はそれだけには収まらず、さらに最悪だったのは、携帯電話をもってでてこなかったことだった。
こういうときにこそ役に立つはずの携帯を、そんなときに限ってポケットに入れ忘れ、間の悪いことにご夫婦で来られたKさんも、ショップで待つ奥様に電話を預けてしまっていて、道の真ん中で止まってしまった車をふたりで押して(これもそうとうひどい話だが)なんとか路肩に寄せたところまではよかったが、ハタと困ってしまった。
歩いて戻ろうにも外は雨、傘はなし。
しかたがないので、万博外周沿いにある大阪大学正門の守衛室に行き、守衛さんの携帯電話を借りて店にSOSをしたが、こういうときにはとことん間の悪いことが重なるもので、この日は店主が名古屋まで車の買取りに出かけており、事務所にいるのは専務と、そしてK夫人。
でけっきょくは、今日始めてお会いしたK夫人に留守番をお願いし、迎えに来てもらうという苦肉中の苦肉、しかもしかも、そのお迎えが阪大と阪大病院を間違えて、小一時間の雨宿りという踏んだり蹴ったり。
その間Kさんとはいろいろと話をしたが、いわば「針のむしろ」状態で、タクシーを拾えば良かっただけだったと気がついたのは、しばらくして応援に来てくれたメカニックとガソリンを持って現場に行く途中だった。
もちろんKさんご夫妻には平身低頭。
そして、これが「縁」というものの不思議なところだが、そんな大アクシデントがあったにもかかわらず、Kさんには車を買っていただいたのだ。
それもその日、店主が名古屋に行って引き取ってきた車を、である。
□ 89/240GLワゴン — クラシックレッド — 80,900km
この車は、旧い車やバイクを集めるのが趣味だというHさんに7年前に買っていただいたスモールウィンドウの240で、そのとき77,200kmだった走行距離も、まだ1万kmあまりしか伸びておらず、とにかく極上の状態だけれど、リタイヤするので少しずつ車を減らしているからということで、何日かまえにオファーをいただいたもの。
赤い240をお探しというKさんに、そのすったもんだの最中に話をしたところ、ありがたいことに、なかなか来れる機会がないから是非見て帰りたいというお申し出があり、いったん間を空けて、店主が戻る夕刻に再度お越しいただいた。
おかしな話だが、Kさんご夫妻とはその日初めてお会いしたにもかかわらず、夕刻に再度お会いしたときには(たぶんKさんたちも)、旧知のような気持ちになっていた。
実際にはもてなすべき私たちの大失態だったにもかかわらず、いっしょになってトラブルをくぐり抜けたことで、妙な連帯感のようなものが生まれていたんだろうか。
実際の車は、報告は受けていたものの、思っていた以上に素晴らしい。
第一印象というのが大切なので、お客様にはきちんと仕上げたものしか見せないというのがわれわれのルールで、そのために早いものでも1週間、ときには1ヶ月以上かかるのがふつうだが、この車は、仕入れてすぐ、いわば獲れたての状態で見ても、ボディやインテリアはもちろん、エンジンルームもピカピカ、そのまますぐにでも展示できそうなくらいに美しく、Hさんがどれだけ丁寧にこの車をケアされてきたかということが、ひと目でわかる。
スモールウィンドウの240がこの状態で残っているのは、数多く240を見てきているわれわれでも奇跡に近いように思えるし、もっと不思議なのは、赤い240、それもデイリーユースで使えるレベルのものを探しているというKさんご夫妻が、この日この場におられたということ。
ただそれでもさすがにKさんは冷静で、一晩頭を冷やして考えますからと、急遽値付けをしたその240と、最初のお目当てだったワインレッドの940(これもすごくイイのです)の見積りをお持ち帰りになった。
そうして、今朝いちばんで快諾のお電話という顛末、嘘のようなホントの話である。
この240の前のオーナーHさんと新しいオーナーのKさんと、その縁を繋いだぼく、この日のこの車にまつわる3人が、同い年の同学年だったということも、また驚くべき奇遇。
Yes, I believe in magic !
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もちろんKさんは、まだこの240を大切に乗っておられるようで、遠方なのでそれほど頻繁にお会いすることはできないが、車検やオイル交換などで折りにふれ立ち寄っていただいている。
出会いの不思議を、あらためて実感する。